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東京地方裁判所 昭和38年(特わ)91号 判決

本籍

中華民国台湾省台南市永楽町一丁目六五番地

住居

東京都港区麻布永坂町一番地

飲食店

遊技場経営

陳炎山

一九二三年一一月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官野村幸雄出席のうえ、審理しつぎのとおり判決する。

主文

1  被告人を懲役一年六月及び判示第一の罪につき罰金一、〇〇〇万円に、同第二の罪につき罰金二、〇〇〇万円にそれぞれ処する。

2  被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

3  被告人が右各罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

4  訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和三四年及び三五年頃は東京都目黒区上目黒二丁目一九六〇番地に居住し、同所で「水 」遊技場を、更に同都千代田区有楽町二丁目一五番地において「ザボン」遊技場を、同町二丁目一一番地において「大丸」及び「第二大丸」各遊技場、及び喫茶店「白鳥」、煙草小売店をそれぞれ経営していたものであるが、自己の所得税を免れる目的をもつて、売上の一部を脱漏するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、

第一、 昭和三四年度分の実際所得金額が事業所得五一、九二二、六五七円、譲渡所得一八、二〇七、二七五円配当所得一三五、〇〇〇円の合計七〇、二六四、九三二円でありその課税所得金額(右総所得金額から基礎控除額九〇、〇〇〇円を控除したもの)は七〇、一七四、九〇〇円であつたのにかかわらず右年度の所得税確定申告期限の前日たる同三五年三月一四日同都目黒区中目黒三丁目一〇七三番地所在の所轄目黒税務署において同税務署長に対し、喫茶店の経営による事業所得については被告人一人に帰属するものとしたが、遊技場の経営による事業所得については被告人のほか陳明雅、梁錦輝、呉錫堯の四名の共同経営であつて同人らに配分されるものの如く装つてこれを分割したうえ、被告人の所得金額を右喫茶店の経営による事業所得、遊技場の経営による事業所得の一部及び譲渡所得の合計額一七、二九九、七二一円(これに対する所得税額八、一七五、八三〇円)とし、陳明雅及び梁錦輝の所得金額をそれぞれ三六五、五〇〇円(これに対する所得税額各五八、一〇〇円)、呉錫堯の所得金額を三三九、二〇〇円(これに対する所得税額五三、三〇〇円)とした右各人名儀の虚偽の確定申告書四通を、さらに煙草小売営業による事業所得を西山美佐雄に帰属するものの如く装つて所得金額を三、四七〇、〇〇〇円(これに対する所得税額一〇九八、五〇〇円)とした右西山美佐雄名儀の虚偽の確定申告書をいずれも提出して確定申告期限たる同月一五日を徒過し、もつて正規の所得税額四二、八〇五、四三〇円と右各申告所得税額の合計九、四四三、八三〇円との差額三三、三六一、六〇〇円を不正に免れ、

第二、 同三五年度分の実際所得金額が事業所得一一六、九九八、七七三円、譲渡所得一、一四七、一六五円、配当所得一三五、〇〇〇円の合計一一八、二八〇、九三八円でありその課税所得金額(前同様基礎控除額九〇、〇〇〇円を控除したもの)は一一八、一九〇、九〇〇円であつたのにかかわらず右年度の所得税確定申告期限の前日たる同三六年三月一二日前記目黒税務署において、同税務署長に対し、同三四年度分の申告と同様に、喫茶店の経営による事業所得については被告人一人に帰属するものとしたが、遊技場の経営による事業所得については被告人のほか陳明雅、梁錦輝、呉錫堯の四名の共同経営であつて同人らに配分されるものの如く装つてこれを分割したうえ、被告人の所得金額を右喫茶店の経営による事業所得、遊技場の経営による事業所得の一部及び譲渡所得の合計額八、一六四、〇〇〇円(これに対する所得税額三、二九二、〇〇〇円)とし、陳明雅及び梁錦輝の所得金額をそれぞれ四八二、三〇〇円(これに対する所得税額各八一、四〇〇円) 呉錫堯の所得金額を四五二、三〇〇円(これに対する所得税額七五、〇〇〇円)とした右各人名儀の虚偽の確定申告書四通を、さらに煙草小売営業による事業所得を西山美佐雄に帰属するものの如く装つて所得金額を四、三五六、〇〇〇円(これに対する所得税額一、四七〇、二〇〇円)とした右西山美佐雄名儀の虚偽の確定申告書をいずれも提出して確定申告期限たる同月一五日を徒過し、もつて正規の所得税額七六、四一六、六三〇円と右各申告所得税額の合計五、〇〇〇、〇〇〇円との差額七一、四一六、六三〇円を不正に免れたものである。

(なお右判示各年度における所得金額の算出は別紙一、二記載の、又その不正に免れた所得の内容項目は別紙三、四記載の税額計算は別紙五記載のとおりである。)

(証拠の標目)

右の判示各事実は左記証拠を総合して認定する。(なお証拠表示中括弧内の数字のうち押収番号、年度、丁数を示すもの以外の和数字は別紙を、洋数字は同別紙の免れた所得内容の該当項目を示す。右項目の指示なきものは判示事実全般についての証拠を示す)

一、 公判廷における供述

1. 証人古荘功、同刈谷京蔵(四1)、同日高幹男、同西山美佐雄(たばこ小売業が被告人の事業である事実、四1)、同美濃村曄夫、同梁錦輝、同陳明雅、同呉錫 (以上三名は同人らが被告人の使用人であつて共同経営者でない事実)、同宮田隆生(四19、20、25)、同ピー・ラツスウル・ザデー、同佐野幹子、同佐野サダ、同長棟至元、同谷川昇(以上五名はいずれも四23)の当公判廷における各供述

2. 被告人の当公判廷における供述

二、 公判調書中の供述記載

1. 第一回公判調書中被告人の供述記載(たゞし判示認定事実に反する点を除く)

2. 第四回公判調書中証人海保秀夫(四7、19)、同西村鉄男の、第五回公判調書中証人水野ヨシコ、同三木美穂(以上両名は四1)の各供述記載

三、 検察官に対する供述調書

1. 被告人のもの

昭和三七年三月一日付、同月二日付、同三八年一月一六日付(三23、24、四31ないし33)、同月二五日付(三1、四1、)同月三一日付、同年二月一日付(三1ないし4、3ほかに確定申告書提出の状況)同月四日付、同月六日付(三2)、同月八日付(三2)

2. 美濃村曄夫のもの

同年一月二二日付、同月二六日付(三10、四1、3ないし )、同月三十日付(四1、5)、同月三一日付(四1、5)、同年二月一日付(四5)、同月二日付(一三丁のもの)(四5)、同日付(二丁のもの)(四6)、同月四日付(四1、5、6、19)

3. 呉錫堯のもの

同年一月一七日付(同人が被告人の使用人であつて共同経営者でないとの事実、四6)、同月二四日付(四1)、同月二五日付(同人が被告人の使用人であること及びその職務内容)、同月二八日付(四1)、同月三一日付(四5)

4. 右のほか(氏名は供述者)

海保秀夫(四7)、松本晃(三1)、奥村和正、反町栄、西成田務、川島亮一(二通)(以上四名はいずれも三15、9四1、5)、星野益美、白神唯男(以上両名は四5)、西村鉄男二通、梁錦輝同三八年一月二五日付、陳明雅(以上両名は同人らが被告人の使用人であつて共同経営者でないこと及びそのその職務内容、四6)、菊地愛(四1、5)、佐野吉夫二通(いずれも四1、6)、小谷実(四16)

四、 国税調査官作成の質問てん末書(被質問者はいずれも被告人)

同三六年六月一五日付(三1)、同月二二日付(三4)、同月二八日付(三1、四1)、同年九月四日付(三1)、同三七年一月二二日付(三2、3、11、四3、4)、同年二月二四日付(三1、11、四1、5)、同年三月八日付(三23、24)

五、 取引内容照会に対する回答書(氏名は作成者)

服部重一(四14)、田山源太郎、中村隆昭、宇都宮十三郎、林光司、阪田貞夫、反町栄、海瀬真波(以上七通はいずれも三15、四5)、深沢久義(三15)、鈴木千枝子(三15、四18)、辻本恵一(三15、四10、18)、南口良一(二通)、東栄一郎、安松茂(以上四通はいずれも三15、四18)、菅祐吉(三15、四5)、田中一夫(三15、四16)、高橋宋典(三15、四16)、南雲弥太郎(三15、四17)、郷本寛(三15、四16)、吉沢惇(三15、四12)、加藤公子(三15、四16)、柳原潔(三15、四15)、岩月照秋(三15、四16)、内山恒男(三15、四17)、志村三二(三15、四17)、長瀬京子(三15、四15)、高津歳男(三15、四18)、木村清三郎、星野光政外一名、板倉史郎、今関哲夫、上田早苗、後藤一郎、楊(以上七通はいずれも四5)、剣持幸雄、庄田多慧子、岩崎利弥、菊田信夫、森松健寿(以上五通はいずれも四15)、大竹聰、黒川直次、原田喜代子、五味勝二、鉾久武男、浜元宏佳、広瀬秀一、池田勇、宗時均、高橋源重、松石、築地茂、浅海博足、宇田川操二通、富岡要蔵、白石金作、富沢新一(以上一八通はいずれも四16)、鈴木功、佐藤尚三、竹内恵子(以上三通はいずれも四18)、小柳錦二(四9)、笹平文雄(四9)、柏木武次郎、深沢武士、富永芳文、小黒光勇(以上四通はいずれも四17)、山田和司(四12)、

六、 東京国税局収税官吏作成の書類

1. 大田原憲作成のもの

銀行調査元帳写(三1、14、18)、昭和三五年末たな卸調査書(四3、4)、借入金支払利息調書(四24)、預金利息及び配当金調書(三12、25、四27ないし30)、各年末買掛金調査書(三15)、専売局芝支局西山美佐雄口座仕入調査書(四5)、減価償却費計算書(三17、四22)、犯則所得調書(四1、2、5、8ないし18)

2. 庄司公一作成のもの

現金有価証券等現在高検査てん末書(三3)

七、 銀行作成の書類

日本相互銀行渋谷支店長宮崎卓作成の証明書二通、協和銀行比日谷支店名儀の残高証明書二通、同上支店長川崎貫三作成の西山美佐雄名儀の当座預金元帳写、日本相互銀行渋谷支店長田辺勝保作成の預金残高回答書(以上いずれも三1)

八、 大蔵事務官伯野三省作成の証明書一〇通(内訳、被告人、陳明雅、梁錦輝、呉錫堯、西山美佐雄の確定申告書写の添付されたもの五通、右同人らの申告所得税課税台帳写及び申告所得税一人別徴収カード写の添付れたもの五通)(いずれも被告人が所得の過少申告をした事実)

九、 その他の書類

1. 上申書(氏名は作成者)

富田富夫(三4、16)、平井忠一(三4)、倉茂鉎次郎(三4、16)、広田久作(三4)、鈴木実(三5)、大槻要一(三11、16、四26)、美野村曄夫(四6)、中村和世(三23、24)、田辺猛三(四31ないし33)

2. 回答書(氏名は作成者)

加藤恒三郎(三12、25、四29、30)、川口亀太郎(四18)

3. その他

坂田光夫作成の答申書(三2)、検察事務官鈴木直作成の登記済権利証写(三4、6)、小谷実作成の見積書及び請求書写(四16)

一〇、 押収にかかる証拠物(いずれも基本となる押収番号は昭和三九年押第一〇九号)、領収書一綴(同押号一)(三11、四31ないし33)、譲渡所得決議書一綴(同押号二)(三23、24、四31ないし33)、領収書一袋(同押号三)三15、四5)、給料帳五冊(同押号四)(四6)、日計表一綴(同押号五)(四1)、ピース売上表一冊(同押号六)(四1)、煙草売上帳一冊(同押号七)(四1)、仕切複写簿九冊(同押号八)(四2、5、8、15、ないし19)、大学ノート三冊(同押号九、一二、一三)(四1)、手帳一冊(同押号一〇)(四1)、会計伝票一箱(同押号一一)(四1)、仕入帳二冊(同押号一四、一五)(四5、9、15ないし18)、日計表二綴(同押号一六の一、二)(同上)メモ一冊(同押号一六の三)(同上)、支払明細表一綴(同押号一六の四)(同上)、仕入帳一綴(同押号一七)(同上)、経費伝票二袋(同押号一八)(同上)、領収書綴二綴(同押号一九、二〇)(同上)、税金公共料金等領収書一袋(同押号二一)(三11、四11、13、14)、住所録二冊(同押号二二)(四16)、経費明書帳一冊(同押号二二)(四8、9、18)、別口領収書一袋(同押号二四)(四18)、永松机中書類ノート四冊(同押号二五)(四17)、青色申告書類綴一綴(同押号二六)(四17)、領収書綴三綴(同押号二七)(四5)、領収証一綴(同押号二八)(四5)、経費記録帳一冊(同押号二九)(四5、6、8、17、18)、雑書類一袋(同押号三〇)(四1、3、5)、領収書一綴(同押号三一)(四5)、景品買受簿一冊(同押号三二)(四5)、仕切複写簿二四冊(同押号三二)(四1)、領収証綴二綴(同押号三四、三五)(四5、8、9、16ないし18)、領収書一袋(同押号三六)中佐野吉夫名儀の領収書三通(四23)、賃金台帳及び源泉徴収簿九綴(同押号七)(四6)、諸給与支払内訳明細書一綴(同押号三八)(四6)

一一、 以上のほか弁護人提出の証拠として

村井顕作成の駐車場料受領確認証(四17)、金銭出納帳(四23)、契約書写二通(四23)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は昭和三五年度分の支出科目(いずれも別紙二、四)のうち

一、 先づ(1)仕入(勘定科目5)中、阿波屋一、四五九、二〇六円、海瀬商店三、八二九、六二一円、(2)厚生費(同8)中志村薬局六、五九五円、従業員慰安旅行費四四九、九六三円、(3)広告宣伝費(同15)中、読売広告五八、一〇〇円、(4)修繕費(同16)中、新建社一、五七一、〇五〇円、大橋電気八九二、一二六円、広田大工五九、八九〇円、杉松工業一五、九二八円、揚石工業一七、一〇〇円、共立無線一三五、〇〇〇円、(5)消耗品費(同18)中、デュプロ三九、〇〇〇円、美濃一商店五、三九〇円、(6)雑費(同17)中、祐川商店二、五六〇円、伏木商店五、一六六円の合計八、五四六、六九五円が計上されるべきであるところ検察官は冒頭陳述書添付の修正損益計算書及び逋脱所得内容表の各該当項目において合計五、七二六、五〇三円を計上したのみであるからその差額二、八二〇、一九二円が計上漏になつていると主張する。

前掲各証拠中小谷実の検察官に対する供述調書、同人作成の見積書及び請求書写、志村三二、黒川直次作成の各取引内容照会に対する回答書領収書一袋(同押号三)、仕入帳一綴(同押号一七)、経費伝票一袋(同押号一八の一)、経費明細帳一冊(同押号二三)、領収証綴一綴(同押号三五)、領収書一袋(同押号三六)によれば弁護人主張の右各金額の計上漏が認められるので同金額をいずれも認容する。

二、 次に雑費(同17)中、日活ガレージ料三五年度分四八〇、〇〇〇円の計上漏を主張する。

前掲駐車場料受領確認証により右支出が認められるのでこれを認容する。

三、 次に地代家賃(同23)中、(1)「第二大丸」遊技場の敷地の一部賃借料二八四、四〇〇円、(2)「ザボン」遊技場の借受について営業権利金分割支払分四、二〇〇、〇〇〇円の各計上漏を主張する。

右(1)の点については前掲証人谷川昇の当公判廷における供述、弁護人の提出した金銭出納帳一冊によれば、被告人が右「第二大丸」遊技場の敷地の一部の賃料として昭和三五年度分二八四、四〇〇円を富久営興業株式会社に支払つたことが認められ又(2)の点については前掲証人ピー・ラツスウル・ザデー、同佐野幹子、同佐野サダ、同長棟至元及び被告人の当公判廷における各供述、領収書一袋(前同押号三六)中佐野吉夫名儀の領収書三通、弁護人提出の契約書写二通を総合すると被告人が「ザボン」遊技場を経営している東京都千代田区有楽町二丁目一五番地所在の建物はピー・ラツスウル・ザデーの所有であつて、同人はかねてよりこれを佐野吉夫に賃貸していたところ、右佐野は昭和二七年頃更に被告人に転貸し、被告人がこれを借受けて同所で右遊技場を経営するに至つたこと、しかして右佐野と被告人との間では右転貸借について、その期間、条件、賃料等について明確な取極はなされなかつたが、ただ被告人は佐野に対し、利益配当という名目で毎月三五万円宛を転借に伴う賃料及び営業権利金の分割支払分の趣旨で支給しており、昭和三五年度においても合計四二〇万円支払つたとの各事実が認められる。従つて右(1)の二八四、四〇〇円、(2)四、二〇〇、〇〇〇円の各地代家賃の計上を認容する。

四、 次に接待交際費(同19)中、(1)愚連隊対策費として、毎月常時対策費一、八〇〇、〇〇〇円、新装開店花輪答礼費一六〇、〇〇〇円、中元歳暮各答礼費二〇〇、〇〇〇円、諸興業の切符負担費三〇〇、〇〇〇円、来店接待飲食費五〇〇、〇〇〇円の合計二、九六〇、〇〇〇円、(2)有楽町町会親善会費として、店主親善旅行会費四〇、〇〇〇円、親善店主会会費一二〇、〇〇〇円、野球部援助費四〇〇、〇〇〇円、白鳥喫茶店ミーテング費三六、〇〇〇円、交番暖房用石炭寄附費六〇、〇〇〇円、官庁暖房用石炭寄附費三〇、〇〇〇円、柔剣道場関係者中元歳暮費二〇〇、〇〇〇円、柔剣道場関係者慰安旅行協賛費五〇、〇〇〇円、消防関係中元歳暮費四〇、〇〇〇円、煙草専売関係等臨検時茶菓代二〇、〇〇〇円、来店接待飲食費二〇〇、〇〇〇円の合計一、一九六、〇〇〇円の計上漏を主張する。

前掲証人宮田隆生の当公判廷における供述によれば右各金額は必ずしも昭和三五年度において被告人が支出したという明確な資料に基くものではなく、被告人が昭和三六年度分、同三七年度分の所得税を申告納付する際に所轄税務署によつて承認された金額であることが認められる。しかして他方前掲証人美濃村曄夫の当公判廷における供述によれば被告人が昭和三五年度の納税申告に際し、交際接待費として計上した一、九八五、八三〇円以外にもまだ何程かのかような種類の交際接待費が支出されていたことがうかがわれる。そうすれば前掲各証拠からは当時被告人の営業規模等には同三五年、三六年、三七年の各年度を通じて別段の変動のなかつたことが認められるのであるから、結局当三五年度期においても弁護人の主張する右各費用の支出があつたものと推定するのが相当である。従つていずれもその計上を認容する。なお弁護人は右接待交際費の計上漏は、被告人が同年度において公表帳簿に計上した一、九八五、八三〇円以外の計上漏であると主張するけれども前記証人宮田の供述によれば右主張額は結局各年度における総額と認められるので当期年度においては既に公表計上済額を控除したものを計上漏として認容する。(なお前掲支出費中、親善店主会会費一二〇、〇〇〇円は組合費(同24)において、野球部援助費四〇〇、〇〇〇円は厚生費(同8)において、交番暖房用石炭寄附費六〇、〇〇〇円、官庁暖房用石炭寄附費三〇、〇〇〇円、柔剣道場関係者中元歳暮費二〇〇、〇〇〇円、柔剣道場関係者慰安旅行協賛費五〇、〇〇〇円、消防関係者中元歳暮費四〇、〇〇〇円は寄附金(同20)において計上する。)

五、 次に給料(同6)中、梁錦輝、陳明雅、呉錫 の給料は年間各人二、〇〇〇、〇〇〇円であつたと主張する。

証人梁錦輝、同陳明雅、同呉錫堯の当公判廷における供述中には右主張に副う旨の各供述があるも他にこれを裏付けるに足る証拠もなく措信しえず、結局前掲右各人の検察官に対する各供述調書、美濃村曄夫作成の上申書、賃金台帳及び源泉徴収簿九綴(前同押号三七)中「事務所」賃金台帳一綴を総合すれば別紙四6記載のとおり梁錦輝四九五、八八〇円、陳明雅、呉錫堯各八〇〇、〇〇〇円と認定しうる。弁護人の右主張は採用しない。

六、 最後に仕入(同5)について同三五年度においては景品買の代金として二四、〇〇〇、〇〇〇円以上の支払があつたと主張する。

前掲証人美濃村曄夫、同日高幹男の当公判廷における各供述によれば被告人は以前から遊技場経営に関し所謂景品買をなしている連中から景品の買受をなし、そしてその仕入先を大和商事、三興商会、唐沢商店等の名称を用いて仕入記帳していたこと、ただし唐沢商店の名称を用いた取引の時期は明らかでないこと、景品買受の際に取扱われる景品は一定時点においてはほぼ同一種のもののみであつたこと、しかしそ記帳は必らずしも正確ではなく可成脱漏したものもあり、又昭和三五年四、五月頃には同業者の同様の景品買の行為が都条例違反として警察の手入を受けたこともあつたため、被告人の方においてもその後同様に手入れを受けることを恐れて関係資料を焼却したこともあつたこと、月々の景品買受高は多少の変動があるにしても一ケ月間全くかような買受をしなかつたということはないこと、しかしその脱漏額がいくらであるかは全く不明でありこれを明らかにする資料もないことの各事実を認めうる。しかして他方前掲犯則所得調書、景品買受簿(前同押号三二)、領収書一袋(同押号三)によれば被告人のもとにあつた資料に基づいて認定しうる景品買受高は同三五年一月一、九三〇、八〇〇円、二月二、三四六、〇〇〇円、三月一、九三二、〇〇〇円四月七七二、八〇〇円、五月二、三五五、二〇〇円、六月三六、八〇〇円(以上いずれも大和商事名儀)、七月二、一三四、〇八〇円、八月六〇二、六〇四円(以上三興商会名儀)、一〇月七七七、九〇〇円、一一月七二三、八九四円(以上大和商会名儀)の合計一三、六一二、〇七八円のみである。従つて買受高についての資料の全く欠如している九月、一二月については右掲記の一〇ケ月の平均値一ケ月一、三六一、二〇八円によつてその月の買受高を推定することとし、右両月の買受高合計二、七二二、四一六円をその他景品仕入高として計上することにする。それ故、当三五年度における景品買受高は前記大和商事名儀分及び三興商会名儀分合計一三、六一二、〇七八円と右推計額二、七二二、四一六円を加えた一六、三三四、四九四円の計上を認容することとし、右額を超える弁護人の主張部分はこれを認めるに足る資料がないので採用しない。

(併合罪関係にある前科)

被告人は昭和三七年三月一〇日東京地方裁判所において外国為替及び外国貿易管理法違反、銃砲刀剣類等所持取締法違反罪により懲役六月二年間執行猶予罰金五万円に処せられ同年五月一六日右裁判が確定したものでありこの事実は東京地方検察庁検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも昭和四〇年法律第三三号付則第三五条により、同二九年法律第五二号によつて改正された所得税法第六九条第一項に各該当するところ、被告人には前示前科があつてその罪と本件各罪とは刑法第四五条後段の併合罪であるので同法第五〇条により未だ裁判を経ない本件各罪につき更に処断することとし、判示第一、第二の各罪につきいずれも所定の懲役刑及び罰金刑を併科することとし、右各罪は又その間において同法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法第四七条本文第一〇条により犯情重いと認められる同第二の罪の刑に法定の加重をなしその刑期範囲で被告人を懲役一年六月に処し、罰金刑については前記所得税法第七三条本文第六九条第二項により、その各所定罰金額の範囲で被告人を判示第一の罪につき罰金一、〇〇〇万円、同第二の罪につき罰金二、〇〇〇万円に各処し、なお被告人に対し、諸般の事情を考慮して刑法第二五条第一項によりこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、又被告人が右各罰金を完納することができない場合は同法第一八条により一〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重光 裁判官 福島重雄 裁判官 武藤冬士己)

別紙第一

修正貸借対照表

昭和34年12月31日現在

△印は減 陳炎山

〈省略〉

〈省略〉

別紙第二

修正損益計算書

自昭和34年1月1日

至昭和35年12月31日

△印は減 陳炎山

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙第三 逋脱所得の内容

昭和34年分

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

明治商事株式会社

〈省略〉

〈省略〉

別紙第四 逋脱所得の内容

昭和35年分

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙第五 税額計算書

〈省略〉

昭和34年分逋脱税額

42,805,430円-9,443,830円=33,361,600円

昭和35年分逋脱税額

76,416,630円-5,000,000円=71,416,630円

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